無限英雄 第9話(その1)

第9話『模倣能力』(その1)







『そうか殺したか』
 ブレインは特に感慨もなさげに言った。
 瞳を助ける為に相手の能力者を殺した。
 あれから少し時間が経ったが、京介自身も大してショックがない。
『いい判断だ。真っ向から戦っていたら、かなり苦戦しただろう』
 京介が殺した能力者チューインの能力は自分の体をスライムに変えていた。
 打撃やもしかしたら銃でも効かない相手かもしれない。
 それをナイフの一突きで倒せたのだから、いい戦果だ。
「殺さないつもりでいたのに・・・なんていうか、やる時はあっさり・・・」
『恐らくだが認識の問題だろう。君は相手を自分と同じ人間と思わなかったんだ。
ゲルの化け物だ、無理もないよ。まあ蚊を殺したような認識だろう。
もう少し人に近ければ、君も躊躇しただろうが』
 チューインこと、津印無我(ついん むが)はセコいコソドロだった。
 あの蒼い雪の晩に、盗みに入る為に忍び込み、そこで狭い通路に阻まれて立ち往生することになった。
 自分の体が柔かければ、液体のようになれればどこにでも気づかれず苦労せずに忍び込めるのに。
 そんな思いに雪が反応し、チューインとしての能力を得たのだった。
「そうか・・・こんなに簡単なら・・・」
 殺して数を減らすのも悪くはない。京介はそう思いかけて首を振った。
『円奈瞳の方は体に異常はない。精神は多少衰弱してるようだが』
「そうか」
 いきなりあんな目にあえば仕方もない。
『それで、彼女の能力のことなんだが・・・』
「分かったのか!?」
 ブレインは少し間を置く。
『おそらくだが彼女の能力は触れた相手、いや能力者の能力をコピーする能力らしい。
報告にあったスライム化の能力は確認されなかった』
「いや、しかし・・・」
『君は多分、彼女をここにつれて来る際に体が触れたんじゃないかな?』
 京介は瞳に手を貸したのを思い出した。
『その時点で彼女の能力はスライムから増幅能力に入れ替わった。
確証がなかったのでハイスピードに接触させたら、スピード能力に入れ替わっていたよ』
「・・・円奈も能力者だったなんてな・・・まったく気がつかなかった」
 モニターの中に彩子のグラフィックが映し出された。
『君だって私に言われるまで気がつかなかったろ?
まだ何もコピーしていない彼女は君に触れて増幅能力を得た。
幸か不幸か、自分では認識し辛い能力で気がつかなかったワケだ。
私としては、君と彼女がどんな接触をしたか気になるな?』
 彩子の顔で人の悪い笑みを浮かべた。
「それ、やめろって言ったろ」
 グラフィックとはいえ彩子の顔でそういう事を言われるのは精神的に辛い。
 ブレインとしては当然それが分かっていて使っているのだが。
『彼女の能力は常時発動するタイプで、本人の意思とは関係なくコピーしてしまうらしい
発見されたのもそのせいだろうな』
 本人が認識すればあるいは制御も可能かもしれないと続けた。
 京介自体認識するまでは無作為に触れるものを強化していた。
『あの能力は使える』
 敵の能力をそのまま使えるのだから、その利用価値は果てしない。
「円奈を巻き込む気か!?」
『敵が能力波を探知するようになったんだ、保護してやらなければまた襲われる』
「敵に向かっていくなら同じことだろ!」
 意見が対立しているところに、ハイスピードの格好でマスクを外した早馬が入ってきた。
「おうおう、盛り上がってるな」
 早馬はソファに腰掛ける。
「彼女は協力したいってよ」
「へ?」
「任意くんの助けになるならってよ、ニクいなお前」
 早馬は肘で京介を小突いた。
『本人の希望では仕方もないな?』
「・・・説得してくる!」
 京介はそう言って部屋を出て行った。
 彩子と早馬は顔を見合わせて2人で肩をすくめた。

 スパークリングとパイルマニアはチューインの反応が消えた場所に来ていた。
「・・・血液」
 スパークリングはしゃがんで、地面に付着している水分に触れた。
 残された血液に紛れたネクスト反応が、チューインのものだと示していた。
「ここで死んだのは、間違いはないようだな」
 スパークリングはつぶやくと、立ち上がった。
「返り討ちとはなさけないな」
「パイルマニア、チューインの能力は恐ろしいよ。私は性質的に天敵だったが・・・」
 チューインの能力はスライム化の他に硬質化、透過。
 人の体内に入ることも可能で、物理攻撃で倒す事はまず無理だ。
「・・・血液が出ているという事は、人に戻ったところをやられたというところか」
「ですね、戦った相手がそういった能力なのか、ただ不意打ちだったか」
「ふん」
 パイルマニアは炎で地面に広く付着した血液を蒸発させ焦がして隠滅した。
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by ookami102 | 2008-08-03 17:30 | 小説 | Comments(0)