無限英雄 第7話(その2)
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早馬瞬速はアルバイトで生計を立てるバンドマンだ。
今時流行らないロックンロールで、たまにライブハウスなどで演奏している。
ギター担当。作詞作曲などもやる。
今年で25になる。田舎の両親には電気会社に就職したと告げてある。
「京介は?」
『医務室で寝かしてある』
秘密基地に京介を連れて行った早馬は、ブレインによってこの部屋に招かれた。
『すまなかったな。相応の礼はしよう。好きな金額を書き込んでくれ』
テーブルの一部が開くと、小切手が早馬の前にせり上がって来た。
早馬はそれを見て一瞬止まった。
「いやいやいやいやいや!そうじゃねぇんだよ、金とかじゃなくてさ!」
早馬はテーブルをドンと叩いてた。
「俺も仲間に入れてくれよ!」
『は?』
モニターの彩子のグラフィックが少し間の抜けた表情を作った。
「俺もヒーローやりてぇんだよ!」
早馬が言うには、インフィニティに影響されてマスクヒーローになったのだとか。
地味に何件かの事件も解決していたらしい。
『・・・全然ノーマークだった』
「ひーでぇー」
しかしブレインとしてもこの申し出はありがたいものだ。
得体はしれないが正体も自分からさらしている。対面してみて悪人とも思えない。
『いいでしょう。京介とも一応相談してみますが、反対はしないでしょう』
「しゃっ!」
と拳を突き上げる早馬を見て、ブレインはそこはかとない不安も感じてしまうのだが。
とりあえずハイスピードのあの速さは、インフィニティの強い味方になるだろう。
『ん?』
「どうした?」
『火災発生の情報が入った・・・が、能力者とは関係ないようだ。放っておいてもいいだろう』
早馬は椅子から腰をあげた。
『どこに?』
「それを聞く? その火災の場所教えてくれ」
早馬はにっと笑って親指を立てた。
火災現場。ハデにビルが燃えている。
「よ、どんな状態?」
駆けつけたハイスピードは近くの野次馬の肩をちょいちょいと叩いた。
「ああ、まだ結構な人数が取り残されているようだ。って、なんだ君は」
野次馬はハイスピードの格好を見てマユをしかめた。
「知らないの? これから流行るんだぜ」
ハイスピードは軽口を言うと、野次馬の間を割って立ち入り禁止のロープをくぐりぬけた。
「ちょっと何してんの!」
消防士さんに止められた。
「まあまあ、見てなよ」
ハイスピードはそういうと消防士の目の前から消えた。
超スピードでビルの中を駆け巡ると、取り残されている人間を窓から外に放り投げると、その人たちが地面に落ちるより早く先回りして、受け止めた。
「コレで全部?」
両手両肩に救出した人間を抱えてハイスピードは消防士に尋ねた。
「あ、ああ・・・」
「まだ私の赤ちゃんが!赤ちゃんが中に!」
消防士の返答をかき消し、母親らしき女性が声をあげた。
『こゆ場面だと絶対ああいう母親いるよね』
ブレインがハイスピードに通信で呟いた。
「赤子ほっといてなんでお前は先にいるっつー話だよねー」
ハイスピードはブレインにだけ聞こえるように小さく呟き返す。
「で、おばさん、どこの部屋に置き忘れたって?」
母親が指をさしたのはかなり上の階だ。
(・・・こりゃあ登っていくと火だるまだな)
さっきよりずっと火も回っている。
「よし・・・しゃあない、行きますか」
ハイスピードは息を吸うと、地面を踏みしめた。
「よーいどん!」
ハイスピードは走り出すと、ビルの壁を走って行く。
途中、窓から噴出した火を飛び越えたりしながら、赤ちゃんを助け出すと、帰りは飛び降りて着地した。
母親に赤子を渡すと、頭を下げる母親を無視して燃え盛るビルに目を向ける。
「次は消化だな・・・えーと・・・」
ハイスピードは辺りを見回して、海を確認した。
「よおし!」
海に向かって走り出すと、海面の上でグルグルと超スピードで回り、タツマキを発生させて海水を巻き上げた。
それを維持しつつ燃え盛るビルに向かって移動させた。
「どけどけどけー!」
水竜巻が向かっているのを見て、野次馬と消防士たちが道をあける。
ハイスピードは停止してその場を離れると、巻き上げられた大漁の海水がビルに覆い被さった。
水の勢いでビル上の方の階は崩れたが、火は消えた。
あたり一面は水浸しになったが、この火災による死亡者はゼロに抑えられた。
「どうだい? 役に立つだろ」
ハイスピードは通信でブレインに語りかけた。
『ああ、恐れ入った』
ハイスピードはにっと笑うと、水しぶきをたてながら、その場を後にした。
つづく。