無限英雄 第6話(その2)
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秘密基地の一角。そこに範子は招かれた。
街のいたるところに基地に繋がる通路が配置されているのだが、入る際に機械で全身をチェックされる。
能力者の中には擬態や縮小、空気や電気や繊維にまで変化する者がいる可能性もあるのである。
チェックとはいっても、スキャンされるだけである。
『どうぞ』
機械音声に案内されて、範子は部屋に入った。
『えー、かけてください』
座っていたインフィニティが範子に着席を勧めた。
『じゃあ、あなたの能力を教えてもらえますか?』
範子が座ったのを確認して、インフィニティは話をはじめた。
「ああ、はい…」
マスクのヒーローと向かいあって座って話しているという異質感が範子を緊張させた。
範子は小銭をテーブルの上に一枚ずつ並べた。
「いけ」
範子が命令すると、小銭がいっせいにテーブルの上を滑りだした。
そして宙を飛びまわり、範子の命令で、きれいに重なってテーブルに戻った。
『…テレキネシス?』
「いえ、私はお金…小銭しか操れないんです」
小銭と認識した場合、小判から銭、外国の通過などでも自由に操れるようだ。と範子は言った。
色々と実験してみてわかった事は、能力の影響する範囲内であれば、いくらでも操作できるらしい。
サチューカンを倒したような使い方や、小銭を固めて防御、集めて乗れば空も飛べる。
そして能力の範囲は、数10キロにも及ぶらしい。
『…わりと、とんでもないですね…』
一聞の能力的にはともかく、少なくとも今まで出会った能力者の中では、ダントツに強力な意思を持っている。
「えー…まあ、落ちた小銭を拾って借金に当てたりはしてますが…悪用したりする気はありません」
続けて、自分の身もある程度守れるので心配して貰う必要はないと続けた。
『確かに…俺も戦いようによっては勝てる気がしないなぁ』
数十キロ圏に存在する全ての小銭が相手だと想像すると、ぞっとした。
『ってことで、帰してあげていいか?サイコ?』
インフィニティは天井に向かって話すと、部屋にあるモニターが映像を映した。
『このまま帰すには惜しい能力ではあるな』
モニターに現われたのは、彩子の顔であった。
『なっ、お前それ…』
『ヒマだったのでな、モデリングしてみた』
モニターの彩子はいたずらっぽい視線をインフィニティに向けた。
インフィニティは何かいいたそうな素振りを見せたが、あきらめたようだ。
「…女の子?」
『私はスーパーコンピューター・サイコ・ブレイン。
この映像はイメージですから、気にしないでください』
今日は色々と面食らう事が多い。範子は気を取り直した。
『あなたの能力はとても興味深い。ぜひとも協力して欲しい』
「協力ですか…」
この場合の協力というと。
「私に、その・・・能力者と戦えと?」
『ええ、見返りも用意しています。あなたの借金はこちらが請負いますし、これからのあなたの生活も保障します』
範子は首を横に振った。
「借金はー、ありがたい話なんですけどね。穏便に生きていきたいんですよ、地味に幸せに…
この能力があば、不便だけど借金も返していけるし、それに」
『それに?』
「私は別に、私以外の人間がどうなっても知った事ではないんです」
正直な人間だ。ブレインは思った。
京介にしても、範子の言う事はもっともだと思う。
惚れた弱みがなければ京介も同じような事を言っただろう。
むしろ軽々しく人の為にみんなの為になどと言える人間など胡散臭い。
『しかしあなたの大切な友人や家族が襲われるかもしれない』
「その時は私が何とかします」
続けて、身寄りがないことを範子は続けた。
『まあまあ、ダメっつってんだから、あきらめようぜ?』
黙って聞いていたインフィニティがブレインの交渉を止めた。
『人の都合をねじ負け出まで戦えって言うのもな』
意外にブレインは反論しなかった。
インフィニティは京介に戻ると、顔の見えないフルメットで顔を隠して、範子を後ろに乗せて近くの駅まで送る事にした。
範子が無害とはいえ、正体は隠しておきたい。
「お疲れ様です」
「…あなた、意外に若い声なのね」
変声システムのついていないただのメットなので、素声なのだ。
「ええ、まだガッコ通ってます」
「…そう」
範子はバイクの後ろから降りると、ヘルメットを京介に返した。
「ごめんね、協力は出来ないけれど…」
まだ学生と聞いて多少心が痛むのか、範子はすまなさそうに言った。
「いいスよ。あそこで千両さんが了承しても、俺止めるつもりでしたから」
ヘルメットの奥で京介はニッと笑った。
「おやおや、やっと出てきてくれた」
突然、声がした。
「・・・生身か」
パイルマニアとスパークリング、雷と炎を全身に纏った2人が京介達に向かって歩いてきた。
「・・・千両さん、逃げて!」
京介は範子の前に出た。
「でも・・・」
「いいから!」
範子は少し戸惑ったが、走り出した。
「・・・まったく君らの基地ときたら、電気まで遮断するんだもの・・・外で待つしかなかったよ」
スパークリングは肩に右手を乗せて首を回した。
「・・・監視されてたって事か」
京介はじりじりと間合いをとる。
「ある方からの命令でね」
「インフィニティ!・・・今度こそ灰にしてやる!」
スパークリングの言葉を遮ると、パイルマニアが前に出た。
「パイルマニア!」
「くたばれ!!」
パイルマニアは炎の球を作り出すと、京介に向かって撃ち出した。
「!?」
京介に直撃して炎が広がった。
『まったく』
炎の中から、インフィニティが姿を現した。
『懲りないヤツだなお前はぁ!』
インフィニティは走り出すと、パイルマニアを殴りつけた。
パイルマニアは弾き飛ばされると、建物にクレーターを作って止まった。
「おやおや、やっぱり力じゃ分が悪いな」
スパークリングが電撃を放つと、インフィニティは避けずに受け止めた。
『このスーツは強化ゴムだ、電撃は通さない』
「知っているさ。パイルマニア君!」
スパークリングが合図を送ると、パイルマニアはクレーターから抜け出して、炎を放った。
『無駄だっていうのが・・・』
インフィニティに炎が命中する瞬間、スパークリングの放った雷が炎と接触し、爆発を起した。
『ぐあっ!?』
凄まじい衝撃でインフィニティは吹き飛ばされた。
「火と雷があわさるとこうなる。おかげで握手も出来ないけれどねえ」
スパークリングがインフィニティの周りに雷電のフィールドを作り出した。
そしてパイルマニアが無数の炎を打ち出したのが見えた。
『ぐっ!』
インフィニティが危機を感じで防御すると、いたるところで爆発が起きて閃光に包まれた。
爆発が収まると、スーツがボロボロになったインフィニティがそこにいた。
「その穴だらけのスーツじゃ、炎も雷ももう防げないな」
スパークリングの言葉を聞きながら、インフィニティはバイクのあるほうに目をやった。
その瞬間に、バイクが炎上した。
パイルマニアがこちらを見て笑った。
(・・・やばい・・・な)
スーツもマスクもボロボロ、出血もしている。
スーツの下は普通の人間と変わらないのだ。
「とどめといこうか」
インフィニティがはっとすると、すぐ目の前にスパークリングがいた。
接近を許してしまった。
スパークリングはインフィニティの頭をつかんだ。
『ぎっ!』
インフィニィのパンチを空いているほうの手で受け止めると、頭をつかんだ手から電撃を流し込んだ。
ヘルメットに電流が走り、火花がはじけた。
モニター機能が停止。目の前が真っ暗になった。
『ううっ、あっ・・・』
インフィニティはふらふらと後ろに進むと壁に当たった。
何も見えないし聞こえない。ここでメットを脱ぐわけにも行かない。
「どけ」
パイルマニアはそう言うと特大の火球を作り出し、インフィニティに向けて投げつけた。
「とっ」
スパークリングはそれを避けると、火球はインフィニティに当たって、後ろの建物を巻き込んで大爆発を起した。
「無茶するな君は」
スパークリングがパイルマニアを見ると、彼は笑っていた。
(任務完了か・・・あっけなかったな)
そのパイルマニアの様子を見ながら、スパークリングは心の中で呟いた。
続く。