無限英雄 第4話(その2)

『ザ・ソード』
↓
↓
↓
深夜の宝石店に銃声が響き渡った。
「がはははは! 金目のものはすべて奪え!」
腹の出た中年の男・金目野モノラルが叫ぶと、黒い全身スーツのゴーグルの男たちが店内に突入していった。
『そこまでだ!』
闇に声が響いた。
「なにぃ、誰だ!」
『俺だ』
モノラルの後ろから普通にインフィニティが姿を現すと、軽く気絶ポイントを叩き、モノラルを気絶させた。
『なんだ、ただの強盗団か?』
このご時世にアナクロな感じもするが。
『さてと』
インフィニティは手をボキボキと鳴らすと、銀行の中に入った。
程なくして強盗団は鎮圧された。
「くおっ…お前が最近噂のインフィニティとか言うヒーローか…」
気絶から目覚めたモノラルが部下の山の下でうめくように声を出した。
『本当は普通の犯罪は管轄外なんだけどね。運が悪かったと思って観念しな』
インフィニティがバイクにまたがろうとすると、何かを引きずるような音が闇に響いてきた。
それはゆっくりと、こちらに向かってきている。
『…なんだ、まだ仲間がいたのか?』
バイクをまたがろうとしていた足を戻すと、その音の方向を向いた。
「先生!先生!遅いでんがな! はよこいつやっつけて下さいよ!」
モノラルが叫ぶと、闇の中から浪人風の男が姿を現した。
浪人は歩みを止めると、引きずっていた日本刀を左手に持った。
「ザ・ソード…」
呟くように名を名乗った。
『インフィニティ、その男…』
通信からブレインの声が響いた。
『ああ、能力者だろうな…ビリビリ感じる』
インフィニティは構えた。
「参る」
ザ・ソードは地面を強く踏みしめると、日本刀を抜刀した。
『うっ!』
その速度に反応しきれず、防御の形を取ると、すぐ横にあった電信柱がずれて倒れた。
「今のは、我が能力を見せたまで。不意打ちで終わってはつまらぬ」
わざと外した。そう言った。
『…こりゃあ、防御なんてしてたら真っ二つだな…』
インフィニティはバイクから特殊合金の警棒を取り出すと、能力で念入りに強化した。
「そんなもので、受け止められると、思うてか?」
『試してみないとな』
次の瞬間、警棒がきれいに斬られた。
『あらっ』
「無駄よ、我が刀にこの世で断てぬ物質など…ない」
インフィニティは斬れて短くなった警棒を放り投げると、ザ・ソードに向き直った。
「気を引き締められい」
ザ・サードが刀を構えた。
『ちっ!』
インフィニティが蹴りを打つと、ザ・サードは刀のツカでそれを受け止めた。
そして受け止めたまま、押し返す要領で斬りつける。
インフィニティの肩のアーマーがパックリと口をあけた。
続けて来た斬撃をかわして、間合いを取ると、インナーアーマーの強化ゴムが切れていた。
皮一枚斬れて少し血が出ている。
(どうにも…避けきれない)
受けるも避けるもうまくいかない。つまり勝ち目がない。
騒ぎを聞きつけた警察が来たのか、サイレンの音が遠くから響いてきた。
「…ふむ、ここまでか」
ザ・ソードは突然刀を鞘に収めた。
『なに…?』
「今から逃げても、我の雇い主は逃げられないだろう。つまり金が払えん。契約は無効になった」
ザ・ソードの殺気が消えた。
『ちょ、ちょっと待てよ、俺との決着は!?』
「金にならん事はせん…命を粗末にすることもあるまい」
と、両手を袖に収めると、ぞうりを引きずるように闇に消えていった。
「そんな! まってくださいな!センセイ!先生ぃ!!」
モノラルの叫び声と近づいてきたサイレンの音で辺りは騒がしくなってきた。
しばし呆然としていたインフィニティは頬をぽりぽりと掻くと、バイクに乗ってその場を後にした。
今まで戦ってきて、苦戦はあったが何とか相手は倒して終わってきた。
が、今回は明らかに負けだ。成す術がまったくなかったのだ。
『負けてショックなのかい?』
秘密基地に帰って来た元気のない京介に、ブレインが声をかけた。
「いや、いや…あいつとまたあったらと思うと、素直に怖い」
ため息とともに、椅子に座る。
「もーまったく勝てる気がしねぇんだもん。あの後もう一撃出されてたら真っ二つだった自信があるぜ」
そんな自信は持ちたくないが。
「勝てる気がまったくしない」
『そうかな。彼は能力の特殊性はあるが、今までの相手とそう違うほどでもない』
意外な言葉だったのか、京介はブレインを見る。
「でもよ、ご覧の通り完全敗北だぜ?」
『そりゃあ、得て不得手な相手は存在する。だが君は自分の力以上に私を見くびっている。
たとえばそのスーツ、見かけは変わらないが、パイルマニアとの戦いを参考にして耐熱性を増してある。
もう一度戦ったとして、君は前ほど苦戦しないだろう』
京介はインナースーツを少し撫でてみた。そういえば材質が少し違う気がする。
『一度勝てなかった程度なんだ。私が次には勝てる装備を用意してやる。
私にはそれが出来る。私がついている限り君に同じ相手に二度の敗北はない』
淡々とされど自信に満ちた声だ。
「…そうだな。1人で戦ってるわけではないもんな…」
京介はそういって立ち上がった。
「よろしく頼む」
『どこに?』
「シャワーだ。もう少し機能性も考えて欲しいもんだ」
『善処しよう』
京介はにっと笑って部屋を後にした。
『それにまあ…あの相手ならば他に方法もある』
ブレインは京介の去った後にポツリと呟いた。
つづく。