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無限英雄 第3話(その2)

第3話『グッド・スピード』(その2)
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                       『ハイスピード』







 気を失っていた瞳が目を覚ますと、辺りの風景が全て線だった。
 つまりすごいスピードで移動している。
 そんな速度で移動しているのに瞳の体に負担はない。空中に浮いてるような感覚があり、風も感じない。
「おめざめかい」
 声がして見下ろすと、下ですごい勢いで走っている前身タイツの男がいた。
「あれぇ?」
「私の名はハイ・スピード。お嬢さん、巻き込んでしまってすまないな」
 ハイスピードはニッとマスクから覗いてる口で笑みを作った。
「どういたしましてぇ…って、どうなってるんですかコレ?」
「ふむ、どうやら私が高速で動く時に自分を守る為に張られるバリアのようなものの歪みに、君がハマっちゃったようなんだね」
 壁を幾つも破壊して通り抜けつつ、ハイスピードは軽い口調で言った。
「どういうことですか?」
「さてなぁ、ボクもこの力を手に入れたのは最近だからね、わからない事ばかりでね」
 ほっ、とばかりにハイスピードが気合を入れると、ビルの壁を駆け上り、そして駆け降りていった。
「ようし、少しばかり扱えるようになってきた」
「あのう、どうして、走ってるんですか?」
 瞳の疑問に、ハイスピードは軽く考える仕草を見せる。走りながら。
「ある時ね。すんげぇ速く走れることに気が付いたのよ」
「はい」
「んでぇ、試しにトップスピードなんてどれくらいかなぁなんて思っちゃって」
「それが今ですか?」
「そうそう。でねー、困ったことに…」
 しばし間が流れた。
「…とまれなくなっちゃってるんですね!?」
 瞳が先に答えを口にした。
「…そうなんだよぅ、はははは」
 ハイスピードは乾いた笑いを浮かべた。
 ハイウェイに出た。
『止まれ!』
 瞳とは違う声がした。
 ハイスピードが声のほうを見ると、バイクで横に並んだインフィニティの姿があった。
「わお、マジもののインフィニティじゃないか!」
 ハイスピードが感嘆の言葉をあげた。
「俺、ファンなのよね、握手してもらっていい?」
『今は遠慮したいな』
 凄まじい風の抵抗を受けながら、インフィニティは断ってみた。
 握手なんてしたら大変な事になってしまう。
『とりあえず止まれ! 話はそれからだ!』
 ハイウェイに落ちていた石をバイクが踏んでしまい、体制を崩し少し後退してしまう。
『ちっ!』
 ハンドルを回すと、またハイスピードに並んだ。
「止まりたいのはやまやまなんですがね、止まってくれなくて、足が」
 ハイスピードはポリポリと頭を掻いた。
『なんだと…くそっ、円奈!平気なのか!?』
「へっ?あっ?はい、なんとか…」
 突然、初対面のヒーローに名前を呼ばれて、瞳はマヌケな声を出してしまった。
『サイコ、何とかならないか?』
通信を送ると、すぐに返答が帰ってきた。
『インフェイト(バイク)のバックにパラシュートが内蔵してある。脱出用の装備だ。
それをとりつけて…あとは踏ん張って貰うしかないな』
『円奈はどうするんだよ!』
 状況はよく分からないがハイスピードが急停止すれば、瞳は吹き飛ばされるか叩きつけられるか、またはGのショックでどうにかなってしまうか。
何にしても普通の人間である瞳には耐え切れないだろう。
『簡単だ。君が受け止めてやればいい』
『俺が平気でも、円奈が衝撃でつぶれちまうぞ!』
 と、言った後にインフィニティはブレインの意図を理解した。
『…なるほど』
『便利だな、君の能力は』
 ブレインは推定衝撃や角度などを割り出したデータをバイクのディスプレイに映し出した。
 だがインフィニティはそんなものを理解は出来ないので、気休めだが。
『よし、受け取れ』
 インフィニティはバイクのバックの収納口からパラシュートボックスをハイスピードに手渡した。
 ハイスピードはランドセルタイプのそれを背負う。
「どのタイミングでどうすりゃいいんだって?」
『合図するから、ジャンプしろ。その瞬間にパラシュートを開いて、あとは足で踏ん張れ!』
 ハスピードはひゅうと口笛を鳴らした。
『円奈、お前は俺が受け止めてやる。少し怖いかもしれないが大丈夫だ、信じろ!』
 瞳は状況が理解できてないようだったが、首を縦に振った。
『行くぞ! 3・2・1、いけっ!』
「しやっ!」
 ハイスピードは気合とともに地面を蹴った。
 空中でパラシュートを展開すると、すごい勢いでブレーキがかかり、ハイスピードの体が凄まじい勢いで引っ張られた。
「きゃっ!?」
 瞳の体が激しく吹き飛ばされた。
『円奈!』
 インフィニティはバイクのスピードを上げると追いかけていった。
 ハイスピードの速度はかなり殺されたが、それでもまだかなりの速度をたもっている。
 両足で地面にブレーキをかけると、アスファルトを削り、地面にめり込み、数十メートルほどしてようやく止まった。
「…あだだ、肩が外れた」
 パラシュートのせいであるが、踏みこんだ足が平気な辺りは、やはりハイスピードも超人であった。

 瞳を追いかけているインフィニティは飛ばされている瞳より前に出ると、落下地点を見図って、バイクから飛び降りた。
 足を念入りに強化すると、地面を滑るように着地する。
 地面をえぐりながら方向転換をすると、胸と腕のアーマーを外した。
 そしてすごいスピードで飛び込んできた瞳を受け止めた。
『ぐっおおおおっ!』
 押される力に抵抗するように吠えると、受け止めた瞳を後ろに放り投げた。
 後ろには海があり、スピードを十分に殺された瞳の体は、水しぶきをあげて海に落ちた。
 インフィニティも投げた体制から倒れて地面を滑ると、そのまま海に突っ込んだ。
 水中で気を失っている瞳を抱きかかえると、海面に出た。
『平気か?』
 マスクの通信機からブレインの声が聞こえてきた。
 インフィニティは瞳の呼吸を感じると。
『ああ、平気みたいだ』
 と答えた。
 ブレインはインフィニティの事を心配していったのだが。とりあえずその返答で無事は察した。

 インフィニティは倒れてうめいているハイスピードのそばまでやってきた。
 瞳はとりあえず地面に寝かしておいた。
『…おい、お前は大丈夫か?』
 さっき外した腕のアーマーを取り付けながら、話しかけた。
「両肩ぁ、外れちまってよぉ…いてぇぇ、散々だぜぇ」
『俺が言いたいよソレは。バイクまでオシャカだし・・・どれだけ被害が出たと思ってやがる』
 不思議と死亡者はいないようだが建物の被害は甚大だ。
 インフィニティはハイスピードの後ろに回ると、肩に触れた。
『はっ!』
 ごりん、という鈍い音がして、ハイスピードの肩がはまった。
「いいっつっ!?」
『我慢しろ。事情は後で聞かせてもらうからな』
 ハイスピードは腕が動く事を確認すると、肩に触れてみた。
 一瞬激痛が走ったが、痛みはもう消えていた。
「おーすげえ…あの子にも悪いことしちゃったなぁ。怪我とかぁ、なかったのかい?」
 コキコキと首を鳴らしながら、ハイスピードは瞳の心配をした。
『ああ、受け止める瞬間にあいつの肉体を強化したからな。かすり傷もなかった』
「そうか」
 ハイスピードはそう聞くと、ニヤリと笑った。
「じゃあ悪いけど、今日は帰るよ」
 と言うと、すごい速度で逃げ出した。
『…あっ!・・・・・・バイクなしじゃ追いつけないか。まあいいか、悪人じゃなさそうだし』
 ちゃんと止まれるんだろうか、という心配はあったが。

続く。
by ookami102 | 2008-07-23 18:28 | 小説 | Comments(0)