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無限英雄2 第8話

無限英雄2
第8話『テグスとネヒーテ』




秘密結社アークスの支部基地。
 といっても寂れた貸しビルの3階である。
 5階建てでそのうち二つはテナント募集中。
 当然それは世間の目を欺くためであり、本当の基地はその地下にある。
 さて貸しビルの一室の方はというと、業務用の机が数台と電話、デスクトップパソコンと周辺機器が置いてある。
 詐欺業者の高飛びしやすいオフィスといった感じか。 
 そこでテグスは蜘蛛男スパル・ダーマをまじまじと見つめている。
 この一室と怪人のアンバラスさはどうか。
「で、今度の能力はどんなものだったんだ?」
「はい、罪深美々の能力で化粧により特性の変わる能力のようです」
 テグスの問いに副官のネヒーテが答えた。
 パンツスーツにメガネと出来る女という風貌である。
「はっは、化粧と来たか」
 蜘蛛男の外見とは似つかわしくない単語にテグスは苦笑しつつ言った。
「まだ取り込めた能力は二つか…遅々としたものだ」
「ここからが難しいところですな」
 ザ・ソードが入ってきた。
「能力者が一箇所に集められているようですからな。それにヒーローもいる」
「ライオネット・シナバーの相手は私がすればすむ事だ」
「失礼ですが、テグス殿は能力者の力を過小評価されている」
「そんな事はないよミスター・ザ・ソード。私は君のことを高く買っている」
 だから幹部に招いたのだと続けた。
「さすればよいのですが、残った能力者の中には厄介な力を持つ者もおりますので」
「そこはあなたに期待するよ」
 テグスはフッと笑うと部屋を出て行った。
「…なんとも能天気な」
「テグス様は今回の作戦を成功させて本社へと返り咲きたいのですよ、ご無礼はお許しくださいザ・ソード」
 ネヒーテが小さく頭を下げる。
「ふうむ」
「どうかなさいまして?」
「何故貴殿のような女が、テグス殿の下についているのかと思ってな」
「どういう事でしょうか?」
「ふむ、まあ上に立つものは無能の方が扱いやすいと言うがな」
 ザ・ソードは着物から出した手で自分のあごをさすった。

「メイクアップとイージースカイがやられたってのか!?」
 サイコの基地で津印無我は報告を聞いて声をあげる。
 元々ガイオナースの能力者なので面識は当然ある。
「あんたたちだって能力者狩りしてたんでしょ? 自業自得だよ」
 一年前の事件で無我にひどい目にあわされた瞳は声を荒げた。
「おいおい俺は殺しまではやってないぜ。スパークリングの野郎はかなり殺ってたようだがよ」
 無我ことチューインは最後の方にガイオナースに入ったので、ほぼ瞳を脅して殴られた事くらいしかしていないのだ。
『それで、オーマは何がわかったんだ?』
「ああ」
 央真は手を組んで壁にもたれかかっている。
「まず今回の計画はアークス本社はまだ感知していないと思う。
 支部レベル、いやテグスの手駒のみでといったところだろうか」
『つまり?』
「ブルーパウダーの事に関しては、テストが終わってない今の段階では、まだ本社には報告していないと見ていいだろう。
 テグスの統括する支部基地を破壊すればデータの流出は抑えられると思う」
 央真は目を閉じる。
「今週のうちに奴らがブルーパウダーの生成した事実をなかった事にするのは、思ったより容易かもしれないという事だ」
『根拠はなんです?』
「メイン怪人が一体しか出てきていないだろう? アントルの数こそ多いが、通常作戦レベルの戦力しか用意できていない。
 テストケースだからさほど予算を裂けなかったというところだろう」
 特撮番組で言うと2話形式で解決する1エピソードのレベルの作戦だ。
「折を見て支部基地を襲撃するのが手っ取り早い」
『なるほど…』
 しかし攻め込むにはもう少し戦力が足りない。
 サイコは少し考え込む。

 サイコ・ブレインの地下基地には訓練場もある。
 そこで辰葉は央真と向かい合っていた。
「やってみろ」
「はい」
 央真の言葉に返事をした辰葉はバディビルに変化した。
 央真を見下ろす形になる。
「ううう、おお…」
「いいか、俺やお前みたいな能力は鍛えれば鍛えるほど強くなる」
 バディビルの豪腕が央真を襲うも、回転してすり抜ける。
「パワーは十分。後は完全に制御さえすれば、領域も見えてくるだろう」
 バディビルの後ろに回り、ひざの裏にけりを入れるとその巨体はバランスをくずして膝をついた。
「しばらくそのままの姿でいるといい」
 央真は訓練室を後にした。

 秘密結社アークスの支部基地。
 その地下、戦闘員訓練室の広間。
 100にも届きそうな数のアントルが整列していた。
「すごい光景ですわね」
「うむ、テグス殿にも無理をさせてしまった」
 それを見下ろすネヒーテとザ・ソード。
 アントルは簡易量産怪人として近年採用された主力戦闘員である。
 これまでの人体改造戦闘員より戦闘力は高く、最初の型には金はかかるが、生成機によりほぼ無限にコピーが出来る。
 まさにデジタル新時代。
 ただしコピーのコピーは劣化していくので注意が必要だ。
 そのコストパフォーマンスはメイン怪人1体のコストでアントル400体は造れるほどである。
 しかし一回の作戦でアントル100体は資金オーバーである。
 すでにメイン怪人一体とアントル20体以上投入しているわけであるから。
「しかし…ヒーローを相手にするならともかく能力者一人を捕らえるのに、本当にこんな数が必要なのですか?」  
「能力者と言ってもピンキリ…その中にはとてつもない能力を備えた者もおるのです」
「あなたのようにですか? ザ・ソード?」
 ザ・ソードは首を横に振る。
「自分を卑下するつもりは毛頭ないが、一対一で戦ってとても勝てる相手ではない…それでこの頭数、情けない限りだ」
「いいえ、あなたの強さはそこを素直に読み取れるセンスと潔さでしょう」
「ふふふ、正直この戦力でも不安が残るほどですな」
 ザ・ソードは苦笑する。
「では、私が少しお手伝いをいたしましょうか?」
「何?」
 意外な台詞にザ・ソードは眉をひそめる。
「どうにもあなたが死に急いでいるように思えて。
 …ふふふ、勘違いなさらないで、あなたの存在は我が組織にとって、失うのは惜しい」
 妖艶な笑み。
「しかし…」
「あら、私もこう見えてアークスの中級幹部なのですよ?」
 ザ・ソードの背に寒気が走った。
(不覚…)
 能ある鷹は爪を隠す。
 ザ・ソードほどの使い手の目をもってしても、ネヒーテはただのテグスの秘書に見えていた。
 優秀であるのはわかっていたが。
「いいだろう、心強い」
 ザ・ソードは口元に笑みを浮かべた。


つづく。
by ookami102 | 2013-03-01 18:27 | 小説 | Comments(0)