無限英雄2 第7話(その1)
第7話『追う者、追われる者』(その1)
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人気のない路地の排水溝。
溝に設置された網目の鉄の柵から、スライムがぬらりと出てくると、人の形に集まった。
坊主頭のお世辞にも人相がよろしいとは言えない風貌の男が出来上がる。
「…よし」
液状化の能力者、津印無我(ついん むが)は半透明のまま辺りの路地を確認すると、完全に人間化した。
「津印無我さんかい?」
突如声をかけられて驚く。
見るとそこには京介が立っていた。
「…ちいっ」
「待ちなよ、俺は敵じゃない、あんたを保護しに来た」
「保護だと?」
無我は京介の姿を見回すと、少し警戒を緩める。
見たところただの若者で、いざとなれば能力で突破できると考えた。
「ネクスターって言葉に聞き覚えがあるだろ? 今それを狩る奴らが…」
説明を開始したところに、ざっざっと地面を擦って歩くような音が聞こえてくる。
「くそっ!き、きやがった!」
無我はあせりの声を上げると、京介の脇を抜けて逃げていく。
「あっ、ちょっと!?」
追いかけようとしたが、近づいてくる足音の主に備える方に集中した。
「…獲物を追ってみれば」
渋めの声が響く。
「どうにも知った気配だな」
サムライ。
姿を見せた足音の主はそう表現するのが一番適当な出で立ちであった。
チョンマゲに着物、そして腰に獲物。
この時代にそんな格好をしている人間を京介は一人しか知らない。
「ザ・ソード!?」
「久しいなインフィニティ…だったかな?」
着物の胸元から出した腕で顎をさする。
「顔を見せた事はなかった気がするけど…」
「なあに拙者くらいになると幾度が相対すれば気配で判別できる」
さすがSAMURAI。
「ちょうどいいや、今ある組織が能力者を殺して周っているんだ、あんたも…」
「知っている」
気配がゆれた。
「あ、ああ…さすがだな」
突如ザ・ソードから生まれた威圧感に、京介は一歩後ずさる。
「拙者の殺気を感じたな」
ザ・ソードは口元に笑みを浮かべる。
「あんた…!?」
「その通り」
キンッ。
京介のすぐ横の壁に切れ目が入った。
「くそっ、また用心棒かよ!?」
「まさか」
ザ・ソードは笑う。
京介はインフィニティに変身して構えた。
「就職したのさね、スカウトされてな」
『あ、悪の組織に!? どんな神経してんだ!』
ザ・ソードは日本刀を下手に構える。
「わからんかな」
次に日本刀をコンクリートの壁に差す。
そしてすっと手を胸元まであげる。
「ここまで剣の道を極める為に修行してきた、が」
すっとその手を縦に薙ぐ。
「人知を超えた力というのは、この先いくら極めても到達できまい」
インフィニティのメットが真ん中から真っ二つに割れた。
「!?」
「どんなモノでも切り裂く能力…くくく、さしずめ魔剣に魅入られたというところか」
ザ・ソードの表情に影が走る。
「この一年、力を失い、拙者は絶望したよ。そして渇望した。
目を覚まし、ふと自分が、腕を天に向けている事に気がつく。
ああ今一度。今一度手にしたい。
あの強い力を。あの満足感を。あの快感を」
手を広げ空を掴む。
「アークスは一度失ったあの力を再び与えてくれた、そして存分にその力の振える場所でもある」
「ぐっ…!?』
「人を斬るは!剣の道の誉れよ!」
咄嗟に交わしたインフィニティの頭上をザ・ソードの手刀が通り抜ける。
「くそっ、最近ロクな目にあわねぇな!」
インフィニティは後ろに飛ぶと、置いてあったバイクにまたがる。
「逃げるか。それもよかろう。
ヌシが能力者である限り逃げられはせん」
インフィニティは舌打ちをしてバイクを走らせた。
つづく。