無限英雄2 第5話(その1)
第5話『野獣咆哮』(その1)
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京介は奈月円と円奈瞳と待ち合わせの場所に来ていた。
「二人揃うと字面的にややこしいな」
バイクから降りて、ヘルメットを脱ぐと京介が言った。
「漢字がカブってるからねー」
「へっ」
バイク二台で、瞳は京介の後ろに乗ってやってきた。
屯公園。
遊具のある公園、ではなく広い自然公園だ。
平日のこの時間は静かである。
「ナチョラルに学校サボってんな」
「いまさらでしょ?」
「高校は出とけよ。ヒーローはツブしきかねーから」
奈月円は銀河連邦所属なのでちゃんと給料は出ているが、半分くらいのヒーローは本業をもっていたり副業をもっていたり、誰かの犠牲の上に立っていたりと、なかなか資金繰りには苦しいようである。
「銀河連邦も給料安いけどな」
地球の物価が宇宙単位で見てもバカ高いのは有名な話である。
「苦労してるんですね」
「たまーに金持ちの道楽でヒーローやってるやつもいるからマチマチではあるけどな」
そのテの金持ちが貧乏ヒーローを養ってヒーローチームが出来たりする事もままある。
「…奈月さんといると知りたくない事実を次々と聞かされる気がします」
「親切なセンパイだろ?こっちこない方がいいぞーって暗に言ってやれる」
そんな二人をよそに瞳は携帯をいじっている。
「奈月さんは俺たちに付き合ってて大丈夫なんですか?」
「ああ、一週間ほど非番だ。来週からは亜光速戦闘に入るからしばらく帰れねぇからな」
「大変ですね」
想像もつかないけれど。
「んっ?」
突然、奈月円がいぶかしげな表情をした。
「どうしました?」
「いや妙な気配が…おい!」
辺りを見回し、瞳のいる方に視線を移した奈月円は、携帯に気をとられている瞳に声を荒げた。
「えっ?」
何事かと顔を上げた瞳は、背後の気配にぞっとする。
瞳のすぐ後ろに怪人が立っていた。
黒い、アリを模した怪人は、ふしゅうと息を吐いた。
「あ…ええ…?」
瞳は恐る恐る振り向いて、そのアリ怪人の姿を見て声にならない悲鳴をあげる。
「円奈!」
京介が駆け出す前に奈月円が飛び出して、瞳を確保した。
すばやい。さすが現役ヒーロー。
「ネクスターハンノウ、フタツ…ミツケタゾ」
アリ怪人は瞳を離された事に特に気にした様子もなく3人を見回した。
「こいつがアークスの怪人か。
なるほどいかにもな感じで、らしいな。
ちょうどいい、任意お前ちょっと戦ってみろ。どの程度の敵か知りたい」
「…気楽に言ってくれるなあ」
京介は一歩前に出るとインフィニティに変身した。
『しゃっ!』
気合を入れてアリ怪人に向かっていく。
インフィニティのアリ怪人の戦いは、パワー・スピードともにアリ怪人に分があったが、インフィニティはうまく戦っている。
ここにきて勘が戻ってきたというところか。
(こいつ、蜘蛛怪人よりは弱いぞ)
戦っていてそう感じた。
確かにパワーはすごいが、受け止められないほどではないし、動きもスキが多い気がする。
「ギッ!」
『ぜっ!』
インフィニティはアリ怪人が突き出した手刀を紙一重で避けるとカウンターでパンチを繰り出した。
「ギギッ!?」
『よし、効いてるな!』
動き自体は単調で見切りやすいが、さすがに頑丈で有効打が入りにくかったが、これで相手はひるんだ。
「決めちまえ」
『はい! はあっ!』
インフィニティの両腕にオーラが走る。
「ギイッ!」
アリ怪人が再び手刀を放ってきたが、その手を横にはじくと、オーラの走った両腕をアリ怪人の胸に打ち込んだ。
ドンッとアリ怪人の背中の装甲皮膚がはじけとんだ。
「ギャ…ギィ…!!」
アリ怪人は呻きながら倒れそうになりながら後ろに数歩歩いて。
「…グギィィ!」
倒れずに持ち直した。
『くそっ!』
「間を空けんな、とどめだ!」
『!? はいっ!』
必殺技で倒しきれず戦意を落としかけたところを奈月円の声で我に返る。
相手のダメージは大きい。
『はああっ!』
咄嗟に足にオーラを集中すると、地を蹴ったインフィニティは、そのままアリ怪人にとび蹴りを放った。
防御する間もなくクリーンヒット。
大きく弾き飛ばされたアリ怪人は地面を何回転かして止まる。
「ウウ…ネクスタァ…」
呻き、ふらふらになりながら立ち上がろうとする。
『く、くそっ!』
が、ひざを立てたところで後ろに倒れて、爆発を起こした。
『…ほっ』
インフィニティは安堵して両肩を落とす。
「なんだ、まったく勝てない相手でもないんじゃないか」
奈月円がポンとインフィニティの肩を叩く。
『いや…』
前にあった怪人はもっと強い。
といいかけたところでインフィニティの動きが止まった。
「ギギギギ」
「ギギギ」
辺りに今倒したのと同じ怪人が現れたからだ。
それも複数。どんどんと増えてくる。
「…量産タイプだったようだな」
『…どーりで』
気がつくと、4方を10匹ほどのアリ怪人に囲まれる。
「に、任意くん…」
瞳がインフィニティに寄り添う。
「マズいなこいつは」
奈月円が辺りを見渡しつつ呟く。
つづく。