無限英雄2第一話(その2)
第一話(その2)『力よ、再び』

↓
男は堅 辰葉(がたい たっぱ)と名乗った。
「すまんな」
薬局で買った湿布と、自販機で買ったコーヒーを受け取り、店の前のベンチに座っている辰葉は礼を言った。
「いや、こちらこそ。堅さんが助けに入ってくれなかったら、今頃ボコボコにされてましたよ」
「君は勇気があるな」
「堅さんがそれを言いますか?」
苦笑しながら京介は自分用のコーヒーを開けた。
「俺はまあ、自殺志願者みたいなものだからな」
「…もしかして本気だったんですか、あれって」
先ほどの輩達とのやりとりが脳内で再生される。
「どうかな」
それだけ言い、しばらく沈黙があたりを支配した。
「…一年前、この街で死にぞこなってな」
気まずい雰囲気になるのを回避するように、辰葉は口を開いた。
「一年前…」
「罪を犯し、死にぞこなって、この街から逃げた」
「……」
辰葉はコーヒーを飲み干すと、腰を上げた。
「今は己を律するために生きているのだと悟った」
「難しい話ですか?」
「いいや。力を振るわないと決めた。先ほどの連中くらいなら叩き伏せる自信はあったよ」
京介は辰葉の体つきと感じ取れる雰囲気で、それが傲慢から来る言葉ではない事が分かった。
京介のように学業の合間に鍛えているとかのレベルではなく、本格的に何か専門的にをやっている肉体と精神。それが感じ取れた。
「いざとなれば叩き伏せられる相手だからこそ出て行けた。死んでもいいと思っていたから出て行けた。君とは覚悟が違う」
聞きようによっては誤解しかねないが、辰葉は京介を褒めているのだ。
「…そんないいものじゃありませんよ」
京介は苦い口調でつぶやくように言った。
ふと、視界の隅に蒼いものが映った。
見た事がある。記憶にある。
「蒼い雪!?」
空を見上げると蒼い雪が降り注いでいた。
いや京介にだけ向けてピンポイントで落ちてきているような感覚だ。
京介の体に降り注ぎ、吸収されていく。
(まさか…)
ハッとして辰葉のを見ると、蒼い雪は辰葉の体にも降り注いでいた。
「堅さん、あんた…!?」
「ぐおおおおおっっ!!」
京介の呼びかけに答える事無く、辰葉は苦しげに咆哮すると、その体が膨れ上がった。
「ああっ…!」
驚く京介の目の前でただでさえ長身の辰葉の体はみるみるうちに2倍ほどの大きさになった。
灰色の筋肉の塊に、野太い欠陥が脈打つ。
京介はこいつを知っていた。
「バディビル!?」
ヒーローをやっていた頃には幾度も戦った事のある相手だ。
まさか辰葉がその能力者だったとは。
口からうなり声を上げながら、バディビルは京介を見下ろす。
そしてその丸太のような筋肉の塊の腕を躊躇なく振り下ろした。
しかし京介はそのバディビルの腕を片手で受け止めていた。
「…やっぱり…能力が戻ってる」
右手の手袋の下に仕込んでいた強化手甲を増幅して何倍もの力を引き出す。
京介の能力はそれであった。
『聞こえるかな京介? 私だ』
耳のピアス型の通信機から声が響く。
サイコ・ブレイン。人格を持つコンピューターであり、京介の相方である。
「ああ…用件は蒼い雪だろ?」
さらに重圧をかけるバディビルの腕を受け止めながら応える。
『やはりか…今しがた街で一斉に能力者反応が現れた』
「そうだな、とりあえずスーツを転送してくれるか? いきなり大変なんだ」
『準備は出来ている』
「そうかい!」
京介はバディビルの腕を振り払うと、間合いを取って、両腕を大きく開いた。
「インフィニティ!」
光の粒子が京介を包み、マスクヒーロー、インフィニティが姿を現した。
「イン…フィニティ…!」
過去に何度も叩き伏せられた、その因縁の相手の名前を叫び、バディビルはコンクリートを踏み潰し前進してきた。
『堅さんよ…あんた自分を律するんじゃなかったのかよ!』
インフィニティの叫びが響いた。
つづく。