無限英雄 第9話(その2)
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瞳は身体検査を終わらせて一息ついていた。
自分の体が溶け出した時は驚いたが、彩子の顔をしたブレインの言葉ではもう溶ける事はないと言っていて一安心だった。
「円奈!」
京介が部屋に入ってきた。
「任意くん・・・」
「お前! 協力するとか言ったらしいな!?
ダメだぞ、あんな冷血コンピューターの言うことに騙されたら!
血の通ってないキカイなんだからな!」
京介の剣幕に瞳は戸惑い気味だ。
『だれが冷血かね』
モニターに彩子のグラフィックが現われた。
「てめぇ! どうせ口先三寸で円奈を説得したんだろうが!させないからな!」
『話をしたのはハイスピードで私ではない』
「どうせ早馬さんになんか吹き込んだんだろうが!」
『心外だ』
「大体前からお前は・・・」
突然入ってきてケンカをはじめた2人に、瞳はどうしたらいいのか分からない。
「まって任意くん!私自分で志願したんだよ」
「だからそれはこいつの誘導尋問かなんかで・・・」
『聞き捨てがならない、君は一体私をどういう目で・・・』
「違うんだってば!」
その瞳の声で喧嘩をしていた2人の動きが止まった。
「任意くん私ね、ずっと任意くんの役に立ちたいと思ってたの」
「それは知ってるけどよ! 危険な事は円奈にさせられない!」
「狙われてるんだよ私? 守ってくれるんでしょ?」
「守るよ!だから・・・」
瞳はふっと笑った。
「じゃあさ、一緒に行動した方が守りやすいでしょ?」
「そうだけどよ・・・」
モニターのブレインが笑った気がして少し癇に障った。
「それに私だって任意くんを守れるなら、命かける価値、あるよね?」
ねえよ。と返したかった京介だが、瞳の真面目な表情に言えなくなった。
「・・・なんでお前そこまで」
「だって私は、任意くんのことを・・・」
『おほん、私だって彼女を前線に出そうなんて思ってはいないさ』
いいところでブレインが割り込んできた。
『そして一つ思いついた。インフィニティのパワーアップについての事だ』
モニターの彩子の顔がまた、笑ったように見えた。
深夜の刑務所に炎が走った。
その炎は牢屋まで飛んで行くと、人の形になった。
パイルマニアだ。
パイルマニアは向かって三番目の牢の前で立ち止まると、すり抜けて中に入った。
完全元素化能力は、スパークリングと一緒にいて会得した能力だ。
「久し振りだな」
牢の中の男は後ろ向きで座禅を組みながら口を開いた。
「助けに来た。ここを出ようぜ、それでよ・・・」
「お前が今、何をしているのかは知っている」
男は目をゆっくりと開いた。
「群れて、従わぬ能力者を殺すなどと」
立ち上がり、パイルマニアに向き直った。
「正直見損なったな」
男の名は堅 辰葉(ガタイ タッパ)。
堅は立ち上がると、180以上あるの長身でパイルマニアを見下ろす形になる。
その威圧感に少し飲まれる。
「何言ってんだ、俺は元々こんな性格だろうが」
「自分の欲求の為に超人の力を振るっていた人間が、今や飼い犬だ。
見損ないもしよう、ええ?」
パイルマニアは言葉に詰まった。
「いや、でも、よ・・・俺1人だし・・・逆らったら殺されちまう。相手は何人もいる。勝てやしない。
あんたもよ一緒に行こうぜ。俺から話せば・・・」
「ふん」
堅は鼻で笑った。
「俺は別に未練などない。なんならお前がここで殺すがいい。抵抗はするがな。
だが俺の能力ではお前には勝てないだろう。だが俺は行かない」
「わからずやめ・・・じゃあなんであの時に一緒に脱獄しようなんて言ったんだよ!」
パイルマニアが牢に入っている時に、脱獄の話を持ち出したのは堅であった。
「お前が逃げたそうだったからだ」
「何・・・?」
想像しない答えが返って来た。
「お前やモノラルのように、この世でやり足りない事があるって人間を手助けしただけだ。
俺はここの生活が気にいている。自分を戒めるにはいい空間だからな」
パイルマニアは言葉を失った。
「・・・もういけ」
「・・・さ、最期のチャンスだったんだぞ? もう助けてやれないからな!」
パイルマニアの言葉を無視すると、堅はまた座禅を組んで目を閉じた。
「・・・ばかやろう」
そう言い残し、パイルマニアは牢から出て行った。
堅 辰葉、超人名バディビル。
格闘家であり、蒼い雪の夜はジョギングをしていた。
はじめてバディビルになったのは練習の時。暴走してトレーナー、ジムにいた人間を皆殺しにしてしまった。
望みは強くなりたい。肉体的に強く。
アドレナリンが高まると超人化してしまい、自分の意思とは関係なく暴れてしまう。
彼はあまんじて牢にいるのであった。
つづく